トピックス
【更新日】:2014/03/26
関口昌宏・形部光昭
期 日 | 平成26年1月10日(金)~12日(日) |
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場 所 | 日本青年館会議室(東京都新宿区霞ヶ丘町7-1) 味の素ナショナルトレーニングセンター(東京都北区西が丘3-15-1) |
主 催 | (公財)日本ラグビーフットボール協会 |
主 管 | (公財)全国高等学校体育連盟ラグビーフットボール専門部 |
講 師 | 山本 巧 勝田 隆 佐藤 晴彦 |
発表者 |
岡安 良(群馬・桐生西) 札木 理(大阪・島本) 竹下 敬介(熊本・専修大学玉名) |
研修者 |
松浦 新(北海道・野幌) 石田 雄悟(北海道・北見工業) 畠山 和馬(宮城・気仙沼向洋) 阿部 昇(岩手・釜石商工) 柳田 剛志(茨城・牛久) 南部 泰正(新潟・新潟商業) 佐川 光輝(新潟・北越) 橋本 洸(静岡・沼津工業) 渡邉 翔(三重・稲生) 中林 秀道(大阪・西淀川) 杉本 修尋(京都・桂) 中嶋 孝行(広島・福山誠之館) 戸井田 幸佑(鳥取・倉吉北) 磯谷 竜也(島根・石見智翠館) 板東 大輔(愛媛・松山工業) 万代 道也(愛媛・北条) 宮田 貴司(香川・坂出第一) 村田 法大(熊本・熊本工業) 辺土名 斉朝(沖縄・名護) |
運営役員 | 柴田 淳 石渡 利昭 |
運営委員 |
関口 昌宏(千葉・行徳) 石井 泰三(埼玉・草加西) 菊池 剛(東京・修徳) 川中子 修(東京・町田の丘学園) 形部 光昭(東京・農産) 野坂 崇(東京・専修大学付属) 奥浦 隆二(東京・多摩工業) 相蘇 純一(東京・足立新田) 山下 邦夫(神奈川・七里ガ浜) 岩崎 孝(神奈川・津久井浜) 鈴木 淳(東京・六郷工科) |
運営委員長 関口 昌宏
昨年、9月7日、わが国のスポーツ界の悲願であった2020年オリンピック・パラリンピック競技大会の東京開催が決定された。日本中が感動と興奮に包まれ、多くの人々の心に新しい夢や希望を届けてくれた。「スポーツの力」を改めて感じ、スポーツ文化の発展がさらなるよりよい社会の構築に貢献していくという強い思いが示された。
また、(公財)日本体育協会では、スポーツ立国実現のために、スポーツの持つ価値や意義を広くアピールし、「フェアプレイで日本を元気に! あくしゅ、あいさつ、ありがとう」をスローガンにした「フェアプレイ宣言」を掲げている。「フェアプレイ」は、すべてのスポーツの根源となっているが、「ラグビー精神」の中にも位置づけられていることで知られており、近代スポーツにおけるラグビーフットボールの価値と文化の偉大さも再確認させていただいた。
2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピックと世界3大メガスポーツイベントの2つが、2カ年にわたりわが国で開催される歴史的行事は大変楽しみであり、15人制と7人制ラグビーの普及・強化にはこの上ない追い風となっている。ラグビー文化が一歩ずつ前進し積み重ねられている。
「夢」が現実となる今、5年後そして6年後に向けて、ラグビーを愛するファミリーそれぞれが、小さな実践の積み重ねにより強固なバインドとなり、さらにその力を結集して頑強なスクラムを組み、ビックウェーブを起こしましょう。
第38回高等学校指導者研修会は、本年も明治神宮外苑の国立競技場に隣接する日本青年館で開催されました。
研修会では、3名の講師による講演、研究発表には関東・近畿・九州ブロックから3名の先生方による取組の実践例を発表していただきました。研究発表の先生方には、事前準備から発表当日までの間、校務や現場の指導等ご多忙の中で準備をしていただきましたことに感謝申し上げます。また、今回は、第2日目午後の講演会場をナショナルトレーニングセンターに移し、勝田 隆先生(副センター長、日本協会理事)より、国をあげてのサポート体制やエリートアカデミーの取組等について学ばせていただきました。過去から現在に至るわが国のオリンピック・パラリンピックの歴史やレガシー(遺産)を施設見学で直視し、これから進むべく方向性に理解を示す中で、オリンピックとラグビーが、自然に一体化しつつあることを強く感じました。
ラグビーフットボールが、より多くの人々に周知され、2020年以後も「魅力的なスポーツ・ラグビー」として広がることを期待します。
以下に、講演と発表の要点を報告します。
*第38回高等学校指導者研修会が日本青年館と味の素ナショナルトレーニングセンターで開催され、山本・勝田・佐藤の三氏の講演に、岡安・札木・竹下の三先生の研究発表のほか、各地からの報告や積極的なディスカッションがなされ、交流を深めました。以下は講演・研究発表の要点です。
日本ラグビーフットボール協会普及・競技力向上委員会普及育成部門長 山本 巧
競技者人口自体は減少しているが、児童・生徒数の減少率と比べると競技者人口の減少率は低い。それに対して観客数は増加しつつある。代表チームのテストマッチでの勝利等の効果が大きい。「変化の兆し」を様々な意味で感じている。
競技者人口全体は「下げ止まり」の傾向にあるが、年少者(ラグビースクール等)
や女子の競技者人口は増加している。また、タグラグビーも普及しており、特にサン
トリーカップは年毎に参加チームが増加している。関西や九州でも多くのチームが参加するタグラグビーの大会が開催されている。以前は中学生になると競技者人口が減少し、小学生から中学生へどうつなげていくかが問題だったが、近年は中学生の競技者人口が増加するようになった。年代別では高校生の競技者の数が約26,000人と最も多いが、これが大学生になると一気に約5,000人減少し、改善が必要な点と捉えている。女子においては予備軍といえる6~11才の年代が増加している。また、都道府県別に見ると、特に中学生の競技者人口の差が大きいことが課題である。
以上の点をまとめると、次の点が問題点といえる。
① 高校卒業生のラグビー離れの解消
② 女子の全世代での競技者増加
③ 競技者数の地域差の解消
これらの問題点の克服には、大学同好会の整備(環境面・安全対策面)、公立中学校の指導者の育成(中学校学習指導要領にラグビーが加えられていないことがネックである)、タグラグビーからラグビーへの移行を容易にしていくこと等が必要と考える。
観客数は増加しており、メンバーズクラブの会員数は10,000人を突破した。
オールブラックスのようなネームバリューのあるチームと、良い試合を組んで行けるようにすることが重要であろう。
普及のモデルとして、注目(Attention)―関心(Interest)―欲求(Demand)―行動(Action)という行動に至るまでの心理過程(AIDA)があり、また、育成のモデルとして、2方向の交流形態(「競い合い」と「親善」)と基盤としての一貫指導(人間の発育発達や指導のポイントをふまえる)がある。ここから、「普及」とは「知らせてやってみてもらうこと」、「育成」とは「一貫指導の原則を理解して交流すること」、「強化」とは「プレーヤー個々の能力を開発すること」とし、さらに、「一貫指導を念頭に、指導者を養成すること」と「科学的知見を普及、育成、強化に反映すること」を「基盤」と定義づける。
委員会の活動目的は「JRFUミッションの具現化(ラグビーファミリーを拡大させ、日本ラグビーの国際力を高める)」であり、活動指針は「安全かつラグビー憲章に則ったラグビーを普及し、代表チーム強化と日本ラグビーを発展させる基盤をつくる。」ことである。普及・育成・強化の流れの中で、普及に関しては小学生ではミニラグビー、中学生ではジュニアラグビーを行い、タグラグビーは普及のツールとして特化したものと位置づけている。小学校5年から育成、中学校3年から強化の要素を加えていく。組織の中には文科省P(資金及びオリンピック)やASP(アジアとの交流)も加えられている。
競技者拡大の施策として、第一にタグラグビーの教育現場への普及があげられる。2011年より小学校の学習指導要領にタグラグビーが加えられた。「楕円球といえばラグビー」といえるように、全国すべての小学校にラグビーボールが転がっている状況をつくることを目標とする。「やる」「観る」「支える」のサイクルによりラグビーのコミュニティーを拡大させ、認知度を高めていく。小学校の先生に支えてもらえるように、タグラグビーエデュケーターによる、6週間程度の統一されたプログラムでの指導者育成事業が推進され、過去三年間で延べ2000名が受講した。抽出調査ではあるが、50.8%の小学校でタグラグビーが実施されており、タグラグビーの良さをさらに広めていく。第二にミニラグビーの活性化があげられる。普及、育成をメインとし、交流会を実施している。東北地方支援を意識した「トップリーグFORALLミニラグビーフレンドリーマッチ」のほか、三地域の協会それぞれでミニラグビージャンボリーを実施している。また、ミニラグビープロモーション講習会も関西協会や九州協会の主催で行われている。第三にはジュニアラグビーの活性化があげられる。三地域ジュニアラグビー助成を行い、太陽生命カップ全国中学生ラグビー大会も第4回大会を開催するまでに至った。また、全国ジュニアラグビー大会も花園ラグビー場で行われており、大会優秀選手の選出も行っている。また、平日の学校終了後に中学生が拠点校に集まりラグビーを行える「放課後ラグビープログラムモデル事業」も神奈川、滋賀、沖縄の各県で実施されている。
今後の課題としては、様々な交流(タグ・ミニ・ジュニアの間、小学生とトップリーグ等)を行っていくこと、中学校の学習指導要領にもラグビーを加えて中学生の活動の場を広げていくこと、小・中学校指導者の研修や指導資格取得体制づくりがあげられる。2019年のワールドカップでの日本の順位等よりも、ワールドカップ後にラグビーが日本国内にどのように位置しているかということが大切であり、ラグビーを根付かせていくことが目標である。まさに、チャンスが到来している。
日本ラグビーフットボール協会 理事 勝田 隆
埼玉県の高校に3年、山形県の高校に10年、その後仙台大学で20年勤め、現在は筑波大学に籍を置いています。このトレーニングセンターは、日本スポーツ振興センターにより管理され、河野一郎先生がセンター長を務めています。その中で、スポーツ開発事業推進部の部長を任されています。今回は、オリンピックを中心にお話をしたいと思っています。
アテネ、北京、ロンドン大会でのオリンピック委員会の強化に関わってきました。昨年のロンドン大会での金メダル数は、11位でした。オリンピックは、204の国と地域の参加、国連の加盟国より多い大きなイベントです。日本の競技力向上が任務です。
ロンドン大会では、26競技302種目、合計962個のメダル。リオ大会では、これにラグビーが入り、28競技になります。獲得可能なメダル数の多い競技は、陸上競技133個、競泳62個、射撃28個で、これらを見てもらうと分かる通り、走って・泳いで・戦ってという近代五種の種目に多いことがわかります。メダル獲得の平均年齢で、低年齢なのは、飛び込み、BMXです。
どれくらいメダルを獲得できるのか。長期的に考えると、メダル獲得数が多いのが個人競技です。チームスポーツは厳しいです。力の加減をどうするのか、限られた人・資源・事情を考え、強化戦略を考えていくことになります。
パラリンピックのロンドン大会では、164カ国20競技503種目。実施種目が多い競技は、陸上170(全体の33,8%)、競泳148(全体の29,4%)、自転車50(全体の9,9%)。用具を使うスポーツ、使わないスポーツがあり、どのようにメダル獲得を考えるのか、ということになります。
2011年3月11日、東日本大震災のとき、山形の自宅に帰る際、「JOCではみんなが何かしたい・何かを手伝いたいと集まっている。実を結ぶように動け。」と連絡がありました。しかし、支援の輪が可能になることは難しかった。社会的意義の模索と具体的「カタチ」探しの葛藤に苛まれました。国をあげて長期的に「カタチ」にするのは、「思い」だけでは難しいが、「思い」がないとできません。普段から事業にしておかないと、突発的なときに対応できないということです。
その国のスポーツが劇的に変わる要素が3つあります。
大きな大会は、大転換期です。人・資源は限られるので、メダルのあるところに重点強化しなければいけません。どの競技にいくら使ったのか、どれだけメダルを取れたのか。日本では、19競技が指定されています。柔道。レスリング、体操、競泳等。イギリスでは、国と競技団体が2ヶ月ごとに話し合いを設け、グリーン、イエロー、レッドに色分けされています。
そのためには、プランニングが重要です。日本代表監督のエディーさんは、2015年ラグビーワールドカップには、2019年ワールドカップに出る選手が60%入っていなければならないと。また、前回大会でベスト8に入っていなければ、メダルは取れないと言っています。
問題点もあります。用具開発は進んでいます。科学の世界は進んでいます。しかし、どの範囲まで認められるか、という問題。選手の知的財産の問題もあります。デュアル学生、代表クラスのアスリート学生については、学業保障をどうするのか、これは法律を変えていかなければいけない次元の問題です。
ナショナルトレーニングセンターでは、若い選手を海外に出していきます。ドイツでは、各州にスポーツ学校があり、11,000人が所属しています。この西が丘地区ハイパフォーマンス事業では、フェンシング・卓球・レスリングをエリートアカデミーのモデル事業として、地方より上京、転校して、生活する中で、トレーニングや語学学習を行っています。
ICCE、コーチングの為の国際評議会で、ヨーロッパを中心にコーチの職業化が進み、他国へ行っても共通のコーチレベル、コーチのグレードの統一が必要となり設立されました。国を代表する機関でしか入れません。コーチングの考え方が進んでいます。
「インティグリティー」、ルールブックの冒頭に出てくる言葉で、品格、品位を意味しています。つまり、スポーツの健全性を重視していることです。ネガティブなことが起きると、スポーツは発展しません。例えば、ドーピング、暴力、イジメ、八百長など。他国は定期的に調査し、国としてしっかりと取り組んでいます。
ラグビー女子も世界ランキングが高い、そういう意味もあり日本スポーツ振興センターと日本ラグビー協会とで、NTID(女子ラグビーのタレント・アスリート発掘事業)種目転向プログラムを行いました。身長170cm以上で6秒台で走ることができる女性です。1人合格しました。ナショナルトレーニングセンターでサポートをしていきます。
「思い」だけでは進んでいきません。システム、予算の裏づけが必要ですし、事業としてどのように捉えるのか。また様々な組織との連携(地域・科学・大学等)が必要になってきます。
A1)
釣り用のベストに保冷剤をいれる形。体表面だけを冷やします。後半の伸びが違うと言われます。
7人制は、コンディショニングの勝負だと言われます。代表レベルでは、練習をしないというのが不安で、練習をし過ぎてしまいます。また、睡眠障害によってコンディショニングが変わってきます。ケータイ、スマホのブルーライトが影響しているといわれます。
年齢に応じた経験をさせることが大事です。高校生は、指示されることをするのではなく、自分で興味を持つことが大事です。
A2)
成長段階で大事なのは、保護者です。保護者プログラムの充実や地域の指導者に勝つ・負けるとはどういう意味か、考えさせることも必要です。
人を選ぶ、フルイにかけるのは、難しいです。バレリーナの齋藤先生からお話を伺ったときに、選ぶというよりは逸材を見つけている。選ばれなかった人が批判をしながら残っているバレエ団はダメ。落とされてもバレエが好き。追い続ける。そういう人達がいるバレエ団でないと、と言っていました。その先、その人が建設的(選考に落ちてもくさらない。)になってくれるかが大事です。
日本ラグビーフットボール協会 メディカル部門委員 佐藤 晴彦
女子柔道での急性硬膜下血腫事故に対して1億3千万円の賠償命令が出され、報道された。脳振盪国際会議(2012年)の合意声明の広がりを受け、日本脳神経外科学会では急性硬膜下血腫受傷後はコンタクトスポーツへの復帰を推奨しない、との見解を出し、アメリカ神経学会では脳振盪に対する新しい管理指針を示している。ラグビーにおいては1984年に「脳振盪を受けた選手は3週間試合練習への参加不可」というIRBregulationが出され、2011年には「IRB脳振盪ガイドライン2011」が示されている。日本協会でも1999年に「ラグビー外傷障害ハンドブック」、2011年に「ラグビー外傷障害対応マニュアル」を発行するとともに、2003年に重傷事故対策特別委員会、2008年に安全推進本部を設置した。各地域協会の安全対策委員長や医務委員長から各都道府県の指導者やコーチ・トレーナー、そして各チームの全選手への伝達による安全推進講習会を実施し、日本版rugby readyを活用しての正しいタックルとその指導や体幹トレーニングを内容としたDVDを作成している。
「平成23年度日体協スポーツ医・科学研究報告Ⅱ」によると、日本スポーツ振興センター学校安全部平成22年度統計を分析したところ、中学・高校の体育的部活動中の事故の届け出の中で、ラグビーは発生件数については他競技と比べて少ないが、重傷頭部外傷発生の頻度は突出していた。ちなみに各地域協会からの脳振盪報告数は、2011年にIRBconcussion guidelineが出されて以来増加している。
脳振盪は脳が揺れることによって生じた脳幹上部間脳のひずみが原因となり、脳の軸索(神経突起)が関係している。脳振盪とは頭部への直接・間接外力による一時的な機能障害であり、その進行と回復は急激かつ自然におこる。脳振盪では意識障害を伴わないことがあり、器質的障害ではなく機能的障害であって、頭部CTやMRIでは一般に正常な所見となる。自覚症状としては頭痛・めまい・霧の中にいる感じ、他覚的所見では意識消失・ぼんやりする・嘔吐等、認知機能障害では反応時間が遅い・脳振盪前後の記憶がない、行動の変化として不適切な感情・興奮状態等、睡眠障害として眠気といったことがあげられるが、これらは頭蓋内出血を疑わせる症状と重なっている。わずかでも徴候や症状がみられたら、「競技から離れる・その日に競技に復帰しない・医学的評価を受ける・継続的に観察する(選手を一人にしない)・頸椎損傷の有無を確認する」ということをその場にいる人が疑い段階で判断することが重要であり、厳密さよりも安全性が優先される。
脳振盪症状の回復期間としては最低でも1週間は必要であり、競技復帰までの期間として3週間はあながち長くはない。また、脳振盪を繰り返した場合3回目は回復が遅れるようになり、早期に復帰すると脳振盪を繰り返しやすくもなる。段階的競技復帰プロトコール(GRTP)では競技復帰までに6段階のレベルを設けているが、子供や青年の競技復帰はより慎重に行う(=症状の完全消失を確認してから復帰)具体的方法は医師が管理する場合と管理しない場合とで異なるが、医師が管理しない場合は試合復帰まで受傷後最短でも21日を必要とする。
急性硬膜下血腫は脳が揺れることによって硬膜下の静脈が破綻して出血し脳が圧迫され、致死的となりうるものである。急性硬膜下血腫と脳振盪は同じ外力の働きで起こりやすく、合併することもある。また、硬膜下の静脈は一度出血すると弱くなり、次の外力で出血しやすくなる。したがって、脳振盪と思っても出血している場合があり、2回目の受傷では大出血する場合がある。また、受傷後に意識清明期を経て血腫圧迫による意識障害を起こすという経過をたどるが、急性硬膜外血腫の場合は数時間の単位であるのに対し、急性硬膜下血腫の場合は数分から数十分単位で意識障害の経過をたどり、起こったら間に合わない状況になる。
IRBは脳振盪に関し、「けいれん・ふらつき・頭痛・錯乱・気絶・放心状態・吐き気・めまい」のうち一つでもあてはまれば、すぐにグラウンドの外へ出すことを世界に呼びかけている。国際的な指針でもあるSCAT2では脳振盪を疑う自覚症状として24の項目をあげ、さらに「首の痛み・意識レベルの低下・混乱の悪化・頭痛の増強・嘔吐の繰り返し・行動の異常・痙攣・四肢の筋力低下」を「RED FLAGS」としている。加えて「脳振盪が疑われる選手は、直ちに競技を中断させ、急いで医学的評価を受けさせるべきであり、一人きりにしたり、自動車の運転をさせたりすべきではない。」としている。脳振盪は安静によって自然に回復するが、繰り返すことによって回復が遅れ、発症し易くなる。また、急性硬膜下血腫やセカンドインパクト症候群をまねき、重症化し時に致死的にもなる。さらに繰り返しが長期化すると慢性脳損傷を生じ、認知障害や平衡感覚障害をまねくことにもなる。脳振盪の、特に繰り返しを避けるためには現場の判断が大切である。病院で頭蓋内出血の有無を確認し、段階的復帰方法をとって安全に競技復帰させるようにすることが重要である。
今後も新たなガイドラインが作成されていくが、現状でも復帰を促した医師の責任が訴訟という形で問われること、読影の間違いが重症化させること、複数回脳振盪の復帰方法や復帰時期、頭蓋内損傷から復帰は可能かどうかということなど、幾つかの問題点がある。しかし、ラグビーが脳振盪をはじめ、安全対策において他競技の手本となるように努力していきたい。
群馬県立桐生西高等学校 岡安 良
初めに、群馬県の高校ラグビーの現状であるが、ラグビー部のある学校が減ってきており、今年度の新人大会には単独チームで出場している学校は14校になってしまった。また20年前と比べて、高体連の加盟選手数は半減している。私が本校に赴任してきたのは3年前であり、ラグビー部はあると聞かされていたが部員は0名で部員集めからのスタートであった。今年度の秋季大会は予選リーグを突破した。現在は14名の部員で活動している。
国内ラグビーの現状として良い面では7人制のラグビーが2016年のリオデジャネイロ五輪から採用され、また2019年には日本でW杯が開催される。日本代表もエディ・ジョーンズHDの就任により強化が進み、テストマッチで結果を残すようになっている。しかし、昨年度の全国高校大会の予選参加校は過去最少の801校でピーク時の1490校からほぼ半減してしまっている。減少の理由として考えられるのは少子化の影響で子供人口が減少している、スクールでラグビーを経験した後に中学校でラグビー部がない、高校の授業でラグビーを取り上げる学校が激減している、危険なスポーツが受け入れられなくなってきている、などがあげられる。このような中で、学校現場にラグビーを取り入れることによってラグビー人気を復活させることができ、将来的にファンや競技人口の増加につながるのではないかと考えた。しかし授業にラグビーを取り入れるには安全性が大きな問題となってくる。そこでタグラグビーであれば条件をクリアできると考え、また平成20年7月、小学校の新学習指導要領の例示にタグラグビーが記載されたこともあり、タグラグビーを授業教材として検証してみた。
タグラグビーの特徴として、身体の接触や地面に倒れこむプレーがなく安全であり、年齢や性別、経験に関わらずプレーでき、体育館などグラウンド以外でもプレーできるなどがある。タグラグビーはアメリカンフットボールのフラッグゲームをもとに、南アフリカで考案され、その後イングランドに広められた。日本では、勝田隆氏がイングランドでのラグビー普及活動として取り組まれていたタグラグビーを見て、競技人口減少対策の1つとして1996年に取り入れた。小学校の学習指導要領には、子供の運動能力の低下と運動をできる子とできない子の二極化が進んでいることによるボールゲームの授業づくりの難しさの対策として誰でも簡単にできるスポーツとしてタグラグビーが採用された。
高等学校においても小学校と同じような状況が考えられると思い、高校の授業でタグラグビーの授業を行い、有効性を実証してみた。対象は3年生の選択授業(スポーツレクリエーション)で、男子23名、女子7名の授業である。単元計画としては全12時間、初めの2時間が導入でラグビーボールに慣れる、タグの取り合いをするなどをおこなう。次の5時間でパススキルやディフェンススキル、試合の準備を行い、最後の5時間で対抗戦とアンケートを行った。アンケートの結果は以下のようになった。
【1】運動は得意ですか? | はい 67% | いいえ 33% |
---|---|---|
【2】タグラグビーは楽しいですか? | はい 83% | いいえ 17% |
【3】上記の質問に関する主な理由を答えてください。 | 「はい」 ・みんなで楽しくできる ・自由に走りまわれる ・男女関係なくできる ・協力して頭を使うから ・タグをとったり、トライをとったときが快感だから など |
「いいえ」 ・ルールが難しい ・他の人と協力するのが苦手だから ・なかなか点数が入らないことが多いから など |
【4】タグラグビーは難しいですか? | 難しい 90% | 普通 10% |
【5】上記の質問に関する主な理由を答えてください。 | ・オフサイドなどのルールが難しいから |
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【6】運動量は多いですか? | 多い(少し多いを含む) 73% | ちょうどよい 27% |
【7】体験した感じたこと(学んだこと)を答えてください。 | ・チームワーク |
また群馬大学の協力を得て、対抗戦(7人制、バスケットコートぐらいの広さ)での運動量の計測を行った。
性別 | 歩数 | ボールタッチ回数 |
---|---|---|
男A | 550 | 10 |
男B | 622 | 11 |
男C | 570 | 7 |
女A | 575 | 7 |
女B | 515 | 5 |
女C | 503 | 6 |
平均 | 555.8 | 7.7 |
性別 | 距離 |
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男A | 358.7 |
男B | 401.7 |
女A | 445.2 |
女B | 495.7 |
平均 | 425.3 |
※プロサッカー選手の1試合の走行距離が10km前後であり、5分間にすると約556mである。
これらの結果からタグラグビーの体育科教材として有効性を考察してみる。まず「運動が得意な生徒」にとっては、頭を使うプレーが増える、チームワークやコミュニケーション能力の向上につながるなどの良い点が見られる一方、他者との協調が苦手な生徒への指導が必要という改善点もわかった。また「運動が苦手な生徒」には十分な運動量が確保でき、男女混合でさらに女子も男子と同様な運動量、ボールタッチ回数が確保できるなどの体育科教材としての良い面が表れていた。
このようにタグラグビーは運動能力の差を克服でき、男女混合の授業であっても有効な可能性を秘めており、また安全かつ運動量も確保できるという点で体育科教材として適していると考える。今年度は3年生の選択授業での実施ということもあり、直接的にラグビー部員の増加にはつながらなかったが、今後は体育科のほかの先生方の協力を得て1年生の授業で実施していきたいと考えている。
・頭を使ってトライを取ることに関する指導はどのように行ったのか。
→クロスや2対1など基礎的な指導はしたが、応用的なことは指導していない。
・熊本県立熊本工業高校
体育科の全面協力を得て、1年生の授業で実施。
最終的にはフルコート、15人制、キックオフやラインアウトありで試合。
毎年、1年の終わりに2,3名入部するようになった。
・三重県立稲生高等学校
三重県にはホンダヒートがあり、小学校を回ってタグラグビーを教えている。
ラグビーの授業で中学校へ出前授業をし、タグラグビーを教えている。
中学校を回り、野球部や女子ソフトボール部にラグビーのトレーニングをやらせてもらっている。
・宮城県立気仙沼向洋高等学校
8年くらい前まで、協会と協力してエンジョイラグビーと銘打って高校のラグビー部員を小学校に派遣してタグラグビーを教えていた。
その後、指導は小学校の先生に引き継ぎ、今でも小学校ではタグラグビーが盛んに行われている。
今年度の12名の新入部員全員が、1度はラグビーボールを触ったことがある。
大阪府立島本高等学校 札木 理
摂津高校でラグビーをはじめ、平成22年度より現任校に赴任。かつて全国大会に四回出場し、日本代表選手を数多く輩出した現任校の現状と昨年度本研修に参加して得たものを発表したい。
現任校は昨年創立40周年を迎えた。大阪の北端部の島本町に位置し、京都府に隣接している。JR島本駅が四年前に新設されアクセスがよくなり、大阪市内からの生徒が増加している。「人格の完成を目指し、個性豊かな人間を育成する」を教育方針として保育専門コースを設置している。
ラグビー部は昭和51年創部。「北摂の雄」と呼ばれ1979年・1987年・1991年・1997年と過去全国大会に四回出場した。また、日本代表に選出された前田達也氏、廣瀬佳司氏、堀江翔太氏を筆頭に優れた卒業生を輩出した。しかし、近年は部員が減少し、三島高校、高槻北高校、芥川高校と合同チームを組んでいる。部員数の減少の理由としては、教育課程に保育コースが設立され、男子生徒の絶対数が減ってしまったこと、家庭環境が厳しい生徒が多く部活動加入者が全体の2~3割にとどまっていること、交通のアクセスが向上した反面地元集中が崩れ地元の生徒が集まりづらくなったこと、特に島本ラグビースクールからの入学者がいなくなってしまったことが挙げられる。
このような状況の中で島本高校ラグビー部復活と活性化に向けていくつかの取り組みを行っている。第一に二人の顧問で中学校を訪問して出前授業を行い、また地元である島本ラグビースクールと改めて連携を図るなど、地元と関係強化を図っている。第二に部活未加入の生徒を積極的に勧誘し、働きかけていく。第三にラグビーの魅力を広く生徒に伝えていくなどである。来年度は募集定員も多く、生徒数増の予定なので、部員増を期待している。
続いて前年度の本研修で得たものについて発表する。前年度の大石徹先生のファンクショナル体幹トレーニングに関する発表を聞いて、コアトレーニングの重要性を認識し、体幹強化のトレーニングを実践した。実際にコアトレーニングを導入し、①四股50回②頚&腕立て左右20回③対人での姿勢1分間2セット④角度付き腹筋30回2種類のトレーニングを毎回練習時に行った。
導入前には①セットプレーの不安定さ②接点での弱さ③立っていられないことによるプレーの幅の狭さなどの問題があった。プレーとしては、スクラムが差し込まれ、割られてしまう、低いモールが組めない、すぐ倒れてしまい粘れないため、簡単にターンオーバーを許すなどの問題があった。
導入後には①セットプレーの安定②立ってつなぐプレー③プレーの幅の広がりなどが見られた。スクラムが低く組めるようになり、ターンオーバーもできるようになった。低く固まったモールが組め、押せるようになった。FWとBKを問わず簡単に倒れず、立ってつなぐプレーができるようになり、プレーの幅が広がった。トライの可能性が高まった結果、勝てる楽しいラグビーができるようになり、生徒たちにラグビーに対する興味関心を抱かせることができた。これは部員増加にもつながることだろうと思われる。
以上のような各効果が見られ、昨年度の研修受講はきわめて有意義であった。今回も研修で学んだものを自チームに持ち帰り、還元していきたい。
専修大学玉名高等学校 竹下 敬介
ラグビー部創部と同時に赴任して満5年を迎えた。全国大会出場を目標とした現在まで
の取り組みを発表したい。
高校からラグビーを始め、一貫してCTBであった。高校2年及び3年の時に全国大会に出場した。筑波大学卒業後神戸製鋼に入社、トップリーグ発足とともにプロ契約選手となる。選手としては抜いていくタイプで、パスはどちらかというと不得手だったので、ハンドリングの練習に力を入れた。試合よりも激しく、本気で手加減のない練習は辛かったが、外国人コーチから最先端のコーチングを受けることもでき、6年間大いに鍛えられ、良い経験となった。平成18年の兵庫国体に主将として出場、優勝することもできた。翌19年にワールドへ移籍、チームのトップリーグ復帰を目標として努力し、地域とも連携した充実した日々だったが2年後に廃部が決定、地元熊本県に戻った。熊本県では国体選手となり、平成21年及び23年に本国体に出場した。社会人としてラグビーを経験して、パスやディフェンスの技術、精神力やコミュニケーション能力、プロ意識を伸ばすことができた。
県北部の玉名市にある現任校は、専修大学の付属高校として西日本では唯一の存在である。甲子園出場を果たした野球部、吹奏楽部、柔道部等の部活動が盛んである。県内の高校には16校にラグビーがあり、全国大会へは県内のベスト4が交互に出場している状況である。初年度は20名の部員が入ったが、環境面では多くの苦労があった。練習場所は約4㎞離れた河川敷であり、練習道具は廃部が決まったワールドのラグビー部から譲り受けた。部員全員が未経験者であったので安全面には特に注意し、ラグビーの用語なども一から教えていった。部員の基礎体力にも差があり、顧問一人で運営する難しさを感じた。
初の公式戦ではその年の県代表校に200点以上もの差をつけられ大敗したが、その2年後には3―47まで差を縮める。1年目の部員達が土台を築いてくれたことに感謝している。大学でラグビーを続けてくれた部員もいる。目標とするラグビーは展開ラグビー(ボールをスペースに運ぶ)である。練習の約半分をハンドリングの練習に費やしている。また、テンポアップ(練習の中でのフィットネス強化、短時間集中)やコミュニケーションを重視している。指導の上で注意するのは「生徒の理解度を常に把握する」ことである。グラウンド設営やレフリーのシグナルへの反応など、部員が理解していないことを前提に「問いかけ(コミュニケーション)→自問自答できる環境づくり→ラグビーを理解させる」というプロセスを踏んで指導した。
部員全員にアンケートを実施し、意識調査をした。ラグビーを楽しいと感じるのはタックルが決まった時だという回答が最も多かったが、一番得意とするプレーも一番苦手とするプレーもまたタックルであった。苦手プレー改善にはその方法がわからないという回答が多く、「一人一人に合ったアドバイス」が重要だと感じている。部員全員が「ラグビーをやって良かった」と回答してくれたのには嬉しかった。学校全体にもアンケートをとったが、日本でのラグビーワールドカップ開催やリオデジャネイロオリンピックで7人制ラグビーが正式種目となったことへの認知度は低かった。また、全体の約3分の2がラグビーに対するイメージとして「きつい、危ない、痛い」と回答したが、「男らしい」という回答も少なくはなかった。
展開ラグビーをモットーに、県内ベスト4、そして花園出場を目指していく。そのために部員確保、普及活動、進路確保、質の高い練習、保護者やOBとの連携に努力していく。自らの得た良い経験に基づいて、ラグビーの素晴らしさを部員に伝えていきたい。さらに、ラグビーを通して様々な経験をさせ、部員の将来にきっと役立つようにさせていきたい。
A1)特待生制度を活用している。(部をやめない。)
A2)コンタクトの練習も多く取り入れてやる時は生でやるので、そのあたりが理由かもしれない。
A3)わからないのにわかったふりをする部員も多い。問いかけて答えさせ、一人一人に対応している。
*各講演及び研究発表後は、積極的な質疑応答がなされました。また、各都道府県より運営上の現状等についての報告もなされました。なお、第14回(平成2年)より第27回(平成15年)までの指導者研修会の記録を収めた「高等学校ラグビーフットボール指導者研修会紀要(第二巻)」を一部500円にてお取り扱いしております。高等学校での指導におけるヒントも多く載せられております。 ご希望の方は、
運営委員の川中子 修
(東京都立町田の丘学園高等部内:〒195-0063 東京都町田市野津田町2003番地
TEL:042-737-0570 FAX:042-737-0580)
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